鯖を数える

    孤塁 #005

     


     〈急ぎ〉という言葉が出てくることがある。

     若い頃は言葉通りに受け取ってしまい、本気になって即座に完成させて、校了の渦中にある編集者を逆に困らせた事がある。  発売日が決まっているのに急ぐという姿勢が偽善に見えて幾度となく態度を硬化したこともあるが、経験を積むと相手がそれを時間的な意味で使っているのではなく、単に〈心配〉しているだけなのだと理解するようになった。 悪くとれば自分に信頼がないわけだが、世に出たことのない本を出す間際の、追いつめられた編集者の心理の中では、周りにいる他人は誰でもミスだらけのウスノロに見えるのだろう。

     胸の内にある一週間のカレンダー。自分の場合は土日から始まって金曜に終わる。イメージとしては散々遊んだから仕事しなきゃというマインドが一週間という単位になっている。人によっては真面目に頑張ってから、その後ゆっくりしたいという週末重視型の人もいるから、仕事の上で相手には急がせたいわけだ。

     考えてみたら自分の場合は誰に言われなくてもいつも〈急いで〉いるのでそれが重荷になることはないが、これほど納期が曖昧になることもない。

     お互いに鯖を読む。そして一緒に飲みに行く。そうした妙味が時代とともになくなってきた事は残念だと思う。了

     

    *「孤塁」こるい【korui】一つだけ残って助けが来る事もない砦。

     

     

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