本でなく生活にある字

    BookLOG #002

     タイトルがひと文字の装丁の仕事が何故か多い。
     装丁では最初にまず題字を用意する。その縦組みと横組みを両方準備するのが初手となることが多い。一字の場合その手間が省けてさぞ自由と思われるかもしれない。しかし、これがなかなか座りが悪い。文字の持つニュアンスも、見る人の気分によっても違ってくる。そもそもどう音読するのかという問題もある。
     三つの短編からなるアンソロジー。既に読んだ文もあったので、私は早々にゲラを読み込むことを放棄した。内容を汲まない装丁は安易に妥協できないという利点がある。

     題字も内容を酌んだ字は広がりが持てない。

     私はこの本の読者のことを考えた。それは普段本を読むことのない読者の気持ちである。本をどんなに手軽に作ろうが読者との距離が縮まることはない。

     その人の周囲に本がなくても、この本のタイトルにある一字は日常生活や会話の中に溢れている。そこから背伸び、あるいはいっそジャンプしてもらおう。それならそのハードルの高さを考えなくてはならない。

     手を伸ばしてもぎりぎり届くか届かない。近寄りたいが怖い〈畏怖〉の念。そんな本であればいいと思った。

     〈高さ〉が見えるように、漢字一文字を私は、縦組みでに愛想なく組んでいる。了

     

     

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