旅をしない人のための地図

    孤塁 #001

     


     事務所の近くに小さな三角の形をした公園があった。れっきとした名前が昔からあるのだろうが、仕事場ではそのスペースをスマップ公園と呼んでいた。

     「夜空ノムコウ」のPVの中でそこがロケ地として出てくる。

     自分たちは朝から夜までずっと仕事場で軟禁状態なものだから、退屈しのぎの言葉遊びで、例えばコンビニで買ってきた食材を「宇宙食」、自宅に帰ることを「地球に帰ります」などと言っていた。

     徐々に自分たちによって造った地名も増えてきて、その中のひとつがスマップ公園なわけだ。造語たちは狭い空間の中では瞬時に定着していく。誰かに事務所の場所を電話で伝える時など、相手が耳にしてもピンとこないのを承知で「スマップ公園を左に曲がって…」などと言って伝えていた。

     単なる労働者の戯れだと思われて外れではない。

     ほとんど動くことのないからこそ、自分たちの位置を示すオリジナルの地図が必要だったのかも知れない。 了

     

    *「孤塁」こるい【korui】一つだけ残って助けが来る事もない砦。

     

     

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