のの字

    孤塁 #002

     本の題には「の」が溢れている。
     ×の×。という時の助詞。「の」である。
     ×の×の×の×。などと続くと、「の」がその前後どちらの×の仲間なのか不思議に見えてくる。音読すれば「の」の後に息が入るのが普通なのだけれど、息がは入らないな場合もある。そもそも同じ字を繰り返すことに抵抗を感じる。
     以前は漢字に比べ、かな文字はひとまわり小さく意匠されていたが、時代がすすむにつれてそれは変わっていった。歳をとった読者に好まれるという妄想も手伝い、かなは大きくなっていった。写植の終わり頃には四隅を漢字と同じスペースに埋めようとする占める書体設計も多く見られるようになった。漢字と隣り合う形で「の」を普通に組んだら、今のフォントフェイスは大きすぎるが、重要なのは「の」の四隅にある僅かな空間なのだと思う。
     描き文字で描いていると、「の」はもう文字とは見えない。文字通り筆を〝のの字〟にくるりと回すだけなのに描いているとすぐに記号にしか見えなくなる。かなについては時折字の形がわからなくなるので手帳に小さなあいうえお表を忍ばせている。

     「の」に込める感情は装丁の醍醐味かも知れない。

     田村義也の装丁における「の」が私は好きである。了

     

     

    *「孤塁」こるい【korui】一つだけ残って助けが来る事もない砦。

     

     

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