緒方修一 セルフインタビュー

    摩天楼と訳した人



    S.O. ご自分のサイトの題をOLDNEWSでなく「平成信用金庫」にする事を直前に踏みとどまったと聞いています。善書から悪書まで、多様な本を作ることを公言している装丁家らしいネーミングだと思いましたが、無防備に人を信用することに、恐れを抱き始めためた訳ですか?
    s.o. 誰に聞いたか知らないけど、のっけからくだらないね。まず信用できる人に向かって信用できるとは言わないだろ。信用や安全などの響きが飾りとしてついた語弊は総じて嘘くさい。約束なんかもそうだけど相手が理解できないないから約束しなきゃならないわけだ。「平成信用金庫」は自分が立っている足元の不確実さとギャラの安さのMetaphorなわけだけど、君の反応が現代人の感性を物語っているよ。

     

    S.O. 学校では何を得たんですか?
    s.o. 普通になっていくという道を選択することも可能だと思えたところかな。

     

    S.O. その後の大手出版社装幀室勤務なわけですが、あなたはそこで何を学んだのですか?
    s.o. 楽しい時間はいつか終わりが来るものだと思っていたけれど、なかなかその日が来ないので不安にはなった。まったく通用するはずのない若者がdailywageで始めただけだから。不思議に思われるかも知れないけれどデザイン上の技術以外は、すべて揃っていたしね。

    まあデザイン会社でなくcommercial publisherからスタート出来たことはラッキーとしか言いようがない。誰かと誰かに挟まれるという媒介としての蓄積も貴重で、完成形をYesとNoの間に着地させるのでなく、二者ともに拒絶するような装丁に落とす事も可能だったし。


    S.O.  あなたに影響を与えた人は?
    s.o. 誰なのか知らないけど高層ビル群を『摩天楼』と訳した人。それだけでもう白旗だよ。それ以外で出会ったと確実に実感できる人なら誰もが師だと思える。彼らからは何かを成し得るとかじゃなくて、突き詰めると人は壊れるしダメになるということを学んだ。ここで言うダメは落ちぶれるという事じゃなく、人生では大きなダメージを避けることはできないという意味だけれど。

    S.O.  発想のストックはどこにあるんですか?

    s.o. 学生が苦し紛れにする質問だが、倉庫はいつも空。今すぐ役に立たないならストックとも呼べないし。……まず自分の中には反応はあっても発想というプロセスが見当たらない。反応を模索するという意味では、仕事だけしてると生活感が稀薄になるので「普通は…」とか「一般のOLは…」というフレーズが打ち合せで出てくる時だけ注意している。ただ街に出かけて誰かに会ったとしてもそこでの影響は大きすぎたり小さすぎたりで、程よさには欠けることが多い。

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


    S.O. 装丁では淋しい絵を多用しますね。
    s.o. まず絵に対して私が合否を出していると思うのは大きな勘違い。(ここでS.O.トイレに立つ。そして戻ってくる)

    s.o. 仕事はアートディレクションとは異した場所にある。絵筆をとるのは画家の仕事だが、そこに辿るまで悩みぬくのも画家の領域だよ。

    S.O. あ、さっきの質問に答えてくれます?
    s.o. (面倒くさそうに)……真面目に答えるのも馬鹿らしいが、自分が仕事で読者を意識するとしたら大勢の人でなく、一人の人間しか想像しない。しかもその人は本を読まないどころか遥か縁が遠い人を設定する。その人が普段笑って過ごしていようが、その心象が淋しさや怒りに満ちていても不思議ではないだろう。

    S.O. 仕事の際、あなたはゲラを読まないと聞きましたが実際どうなのですか?
    s.o. それはまったくの作り話だ。ただ、読んでも仕方がないものもあるだろう。ここでハッキリ言っておくが、不完全な原稿ほど健康に悪いものはない。あれがすべての不眠の元だと気づいた時に私の場合手遅れだった。単純に考えても、〈読者=内容を知らない買い手〉への橋渡しが〈読むこと〉だけで解消されることはない。

    S.O. あまりにも多くの時間を制作でなく打ち合せや外回り、あるいは意味の良くわからない会合に費やし過ぎているとは思いませんか?

    s.o. No。例えば…ひらがなの「お」という文字の右上の点だけを打たないまま出かける人間の心理が君には到底理解できないだろうがね。

     

    S.O. 最後に、豪華でも華美でもないスタンダードデザインに固執するのはどうしてですか?

    s.o. 昔、座れない満員電車で、女性編集者が股ぐらに分厚いゲラを挟んだまま、左手でつり革と抜き出したゲラの一部、右手に赤ペン、口に鉛筆をくわえて鬼の形相で赤字を入れてたのを近くで見たけれど、それはデザインなどが入り込めない空間として自分の中に残っている。本にsomething to say〈何らかの言いたい事〉があるのなら洒落たジャケットを着せる必要はないだろう。それにせっかく斜陽になった出版に身を置いていていながら、自分は小判鮫のごときデザイナーですじゃあ退屈過ぎるだろう。最初からそんな気は1ミリもないけどね。了

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